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『字余りの茂吉』の真骨頂の『茂吉の字余り』
湯いづる山の
月の光は隈なくて
枕べにおきししろがねの時計を照ら
す
(ゆいずるやまのつきのひかりはくまなくてまくらべにおきししろがねのとけいをてらす)
病気を持っていた茂吉が湯治を兼ねて温泉旅館に泊まった時の歌。だから「湯いづる山」である。
七、七、五、八、十二
さすがにこれはやり過ぎか。
でも、どうだい?
これ以上のバランスがあるだろうか?
つまり、
これについては少し長くなるけれど、
まず、
「湯いづる山の」
の七で、む、と身構える。しかし、
次に、
「月の光は隈なくて」
七五の定型が来て、ふ、と気が緩み、油断した所へ、
「枕べにおきししろがねの時計を照ら
す」
と引きずられる様に畳み掛けられる。
静寂と光明と共に!
これはこの
七、七、五、八、十二
の効果に他ならないだろう。
どうだい?
これ以上のバランスがあるだろうか?
そこには、窓から差し込む月明かりに照らされて、まぶしいほどに光る時計が、あたかも僕の枕もとに置いてあるのである。