舌足らずの詩人は

福地勇からあなたへ歌や病気など

僕のベランダには今、朝顔があって、それは元気に育っている。

朝顔なのだから、ツルが伸びる。
そんな事はちゃんと知っているから、ちゃんと棒を立ててある。
しかし、その棒が若干短いのだ。
もっとも、さほど大きくない植木鉢だから、あんまり高い棒は立てられない。

僕の朝顔は発育が素晴らしいから、そんな棒はすぐに足りなくなってしまうだろう。
しかし僕は、そんな事もちゃんと分かっているから、植木鉢をベランダの手すりにぴったりと寄り添うように置いたのだ。
無論、棒から手すりへ巻き付いてもらうためだ。

この様に、僕は優れた先見の明と、なにより慈愛をもって、朝顔に接して来たのだ。
かくして朝顔は、何とも可憐な、少々小ぶりではあるが、紫色の美しい花を、幾つも咲かせたのである。

だがしかし僕は、ここで非情なる裏切りにあう。

僕は植木鉢を手すりにぴったりと寄り添うように置いた。
棒があんまり短かろうという、これは優しさだ。

しかし見よ、とっくに棒を超えたツルは、空中をさまよい、手すりには巻き付こうとしない。
良く見ると、ツルはツルに巻き付いているではないか。
こんなに巻き付きやすい手すりがあるにもかかわらずだ。

僕は愕然としたが、そんな事では打ちのめされない。
きっと気が付かなかったのだろう。
僕は優しく、ツルを手すりに巻き直した。

しかし翌朝、ツルはまた、空中をさまよっているではないか。

これはもう明らかに「手すりには巻き付かない」決意である。

そこで僕は「好きにすればいいさ」
と突き放しただろうか?

いいや、僕はそんなちっぽけな男ではない。
手ひどく裏切られてもなお、意志を尊重する度量を持ち合わせているのだからこそ、明日の花を楽しみにするのである。